【第3弾】長岡の筍、乙訓の竹林を世界遺産に
最高の筍を、最高に味わう。なづけて「ウルトラ・バンブー・ディッシュ(筍の超逸 品)体験記」

サクラ満開かと思ったタイミングで花寒が続いた、ことしの春。

3日ほど前から、たけのこがいよいよ「最良の状態」になったという4月上旬のある日。

1年かけて丹念に、丁寧につくりこんだ長岡の筍農家の畑に、おじゃました。

朝7時。晴れた空。適度な間隔でのびる竹林。

風で揺れる木漏れ日。

黄土色の地面には葉っぱ1枚落ちていない。

どんな小さな「割れ目」も見逃さない。

30代くらいの「お弟子さん」が準備していた。

挨拶して、筍掘りを見させてもらった。

前日に名人が、割れ目を見つけて刺しておいた、長さ30センチほどの竹のしるし。

たけのこの先っぽを手で確認し、まわりの土を手で取り除きながら、
専用の鉄の道具「ホリ」を土の中に、差し込んでいく。

最初は慎重に。

次第に大胆に。

ホリをぐぐっと差し込み、てこの原理でたけのこをもちあげる。

完全な形で地上に現れた。

なんという白い肌。

これぞ、世界に冠たる京たけのこだ。

作業を繰り返すうち、700グラムサイズの良型の筍が、とれた。

満面の笑み。

そこへ師匠がやってきた。

広い竹林をすたすた歩きながら、そこここに竹の目印をたてていく。

まさに「雨後の筍」。

なんという数の新たな筍が、ずんずんのびているのかが、わかる。

それにしても、達人の筍農家には「地中がみえている」。

どの地下茎からどの向きに、どんな大きさ、スピードで。

完全に把握しているとしか思えない。

だから、あと数日置いておくとすごい大きさの筍になるといった話を、当たり前のように師弟で語り合っている。

ホリを操る精度が、どんどんあがっていく。

先っぽを確認してから、数秒で掘り起こすという「離れ業」が、目の前で繰り広げられる。

運び役の女性が、掘られた筍を竹かごに入れ、土間に運ぶ。

包丁で形を整え、むしろに並べて上からもむしろでおおう。

乳酸菌が作用した、独特の強い匂いがハエを呼ぶからだという。

だから筍は掘ってから調理し、食べるまでの時間が短ければ短いほど、味がよくなるのだということらしい。

午前中の4時間あまりで、70キロを超える筍が、収穫できた。早速、荷だしの箱につめる。

お昼前。

きょうの料理人、京都の台所・錦市場で腕をふるう内藤さんが、ひょっこり顔を出す。

白い筍がずらりと並ぶのをみて、思わず顔をほころばせる。

久しぶりに最高級の筍を扱える。

腕がなる。

ボールを手に、内藤さんは竹林の横の大きな山椒の木をめざす。

花山椒をつむのだ。若芽を丹念につむ。時々指先を鼻へ。

息を吸い込み、にこり。

作業は30分も続いた。

直径30センチのボールが、花山椒でいっぱいになった。

調理をする小屋に戻り、立派な京たけのこを皮ごと水を満たした寸胴に。

「いつも使う米ぬかは、いりません。えぐみゼロやから。このレベルになると、ぬかの匂いが残って気になる。そのままで食べてもいい筍やから」

ナマの筍をささっと包丁でサイコロにして、手渡してくれた。

口に入れると、りんごのような香りと味がした。

驚きのうまさだ。

そこへ「味わう人たち」がやってきた。

国連の世界農業遺産の国内審査員もつとめた前同志社大学教授の大和田順子さん。

「琵琶湖システム」の世界農業遺産認定に汗を流した滋賀県の職員、青田朋恵さん。

京都府庁に勤め始めた若い世代も含め、筍に目がない女性が集まった。

「きょうは、できるだけ手を加えず、最高のたけのこの味をできるだけそのまま、という品を4つ、つくります。あんこも炊いてきたので、筍のデザートもあります」

小さな歓声があがる。きょうの4品とは――

『絶品白みそを加えた白和えで、ゆでたての白いたけのこを』

『たっぷりのあおさで』

『おいしい食パンとたけのこをくるんと巻いた、白い海苔巻き』

『たけのこと、それとは別にだしで炊いたご飯と、焼きあなごをあわせた筍ご飯』

『いちごとあんこと筍を生クリームをあわせた特製ソースであえた、和デザート』

多くは語らない。

ほっぺたが、何度も落ちた。

琵琶湖システムを世界農業遺産にした青田さんが語った言葉。

「大切なのは、とにかく仲間を増やすこと。関心を持つ人、大切な情報を共有し、行動を共にする人を増やす。自然との関係がみえてきて、自然も人も元気になっていく」

未知なる世界の扉があいた気がした。

長岡の筍、乙訓の竹林はやっぱり、最高だった。

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